Circle of Life

 サファリで何が一番すごかったのか? とよく聞かれます。

ガイドにも「何の動物がみたい?」と聞かれるのですが、私は動物を見るというよりアドレナリンが出るような瞬間を経験したい!と思っていました。

先に宿泊している人たちの話を聞くと、ライオンが獲物を食べているところに遭遇したとか、テラスで本を読んでいたらハイエナがいて目が合ったとか、そんなことを聞くと全て運だとわかっていても期待は高まります。

 このSelous game reserveは湖沼が点在し、川や湖をボートに乗ってサファリすることが出来ます。

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 ディズニーランドとディズニー映画で育ってきた私にとって、まさか本物のジャングルクルーズとライオンキングを体験する日がくるとは思っていませんでした。

シニカルな人は、ディズニーの世界なんてただの空想の話で現実は厳しいんだ!なんて言いそうですが、私がボートサファリで見た景色はディズニー以上にディズニーでした。

 

 午後の空の色は柔らかくだんだんピンクに色づき、キラキラ光る水からは小さな魚がジャンプして(エンジンの音に驚いて何匹もボートの中に飛び込んでくるのです。)上を見上げればペリカンとかサギとか大きな翼の鳥が、赤ちゃんのベッドの上をクルクル回るモビールのように旋回しています。

遠くではヤシの木にならんでキリンがこちらをジッと見つめ、ワニは大きな口を開けてのんびり日向ぼっこ。

カバは耳と目だけギョロリと水面から出て時々プシューっと鼻息が聞こえてきます。

 カバは体重4トンにもなり、陸にいる時は特に攻撃性が強いのでアフリカでも最も危険な動物だそうですが、日中は水の中にずっと潜んでいて、フンを餌にする魚がカバの周りに集まり、その魚を狙う鳥やワニも集まってきて、そこには小さな共同体が出来ているのです。

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  しばらく川を進むとガイドがあそこに象がいるから見に行こう!と言います。私たちにはどこを見渡しても象は見えません。これが噂通りのアフリカの人たちは視力がいいということか!?となんだか嬉しくなりました。

ガイドの言う通り随分先の茂みに一頭の象がいました。象の肌の色も茂みの色にカモフラージュされて、言われなければ気づかないくらいなのでやっぱりプロは違うなと感心していると、ガイドは「この子はきっと川を渡って向こう側に行くはずだから反対側で待ってみよう。」と言います。

ボートを岸のギリギリまで寄せて待っていると、案の定象はこちら側の木の葉を食べにきました。

そしてしばらくすると私たちのボートの目の前を横切って川を渡り始めました。なんとほんの2、3メートル先で野生の象が一人で好き勝手に歩いているのです!

「大丈夫、大丈夫、彼は人間に興味なんてないからね。みんな落ち着いてね。」と後ろでガイドがセラピストのように安心する声で言っているので、100%彼を信頼し冷静を保ちましたが、フッと象がボートの方へ振り返ったのです。あの瞬間の長かったこと!息が止まりました。

私たちが邪魔をして怒ったのかな?とか、こっちにやってくるのかな?とか一気に頭の中を巡り、ほんの一瞬ですが予想外で、あまりにも強烈な瞬間だったので今でもスローモーションではっきりと覚えています。

 ガイドは例のセラピストの低い声で「大丈夫、大丈夫、ぜーんぜん問題なし。彼は僕らに挨拶したんだね。」と言っていましたが、私は緊張と興奮で期待通りアドレナリンが出たし、象と挨拶できたのね、、、ということで大満足です。一緒にボートにいた人が、「象は向かってくるし、逃げたところで川にはワニがいるし、どうしようかと思った!」と言っているのを聞いた後で、よく考えたら怖いくらいの体験だったんだなと目が覚めました。

 

 Selousの一部の区域はハンティングが許可されているので、動物たちは人間のことを警戒しているとはいえ、ガイドの言う通り私たちに無関心で、こちらがパニックにならない限り集団で"何かに乗って移動する変わった動物"が通り過ぎていくだけだと思っている様です。Jeepでのサファリの時もライオンのすぐそばまで近寄りましたが、私たちが彼らの邪魔をしない限り、向こうも何の興味もない様です。

 肉食獣の餌となるシマウマやインパラなどの草食動物は数多く、増えすぎれば草木のバランスが崩れます。ライオンは狩りをするのに6秒間しかダッシュができず、その6秒のために狩りのほとんどの時間は獲物を追跡しタイミングを計ることに費やすそうです。ハゲワシとか鷹などの鳥は肉食獣のおこぼれを頂戴しようと上空からハンティングの様子を見守っているそうで、ガイドは「空を見てワシが飛んでいる下には肉食獣がいるんだよ。」と言っていました。そのハンティングも命がけであり、食べるという目的なく必要以上に行われることはありません。植物は食べられない様に、毒があったり棘があったりそれぞれに進化し、"生き抜く"という生命の強さを感じます。

 全ての生物が生き抜くために強くなり、他の生物と共存している"Circle of Life"の中に入った時、なんとも熱いエネルギーを感じた様に思います。まるで赤ちゃんを抱っこした時に温かくて子供のエネルギーはやっぱりすごいなと実感するのと似ているかもしれません。

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 日暮れとともに、どんどんピンク色になっていく空には相変わらず鳥が旋回し、ボートが進むようにゆっくりと夜を迎えます。

昔子供部屋にあったモビールと、何度も見たライオンキングの映像がここで見ている景色と重なり、夢の中にいるような気持ちになりました。

 

 帰ってからもその時のガイドが時々写真を送ってくれるのですが、それを見るたびに今日もあそこでは夢のように時間が流れているんだろうなと、なんだか安心した気持ちになります。 

 いつかまた、必ず訪れたい場所の一つです。