私がハワイ島に出会ってから12年が経ちます。
10年をマイルストーンの一つと捉えることが多いのでしょうが、時計や一年、干支などを通して考えると12年というと一つのサイクルが廻った気がします。
ハワイを好きだという人はとても多いと思いますが、私は無意識によくBig Island、 もしくはハワイ島と正確に名前を言います。なぜなら、8つの島からなるハワイ諸島は、どの島もユニークな個性がありそれぞれ違うからです。そして地元の人々もそれぞれ誇りを持っています。
20代半ばでハワイ島に行くことになり、それからハワイ島が第二の故郷と言えるほどたくさんの時間を過ごしました。そして、多くの皆さんがハワイ島に行って人々や文化、自然に圧倒されるような経験をするように、私にも個人的なハワイ島との物語がたくさん生まれました。その喜びや葛藤の物語ともにハワイ島への感謝と愛はどんどん深まっていきます。土地に対して感謝する気持ちは多くの人が持っているもの思いますが、正直に言うとこれまで私はそう言う人をなんだか大げさな気がして、少しシニカルにどこか冷めた目で見ていた時もありました。しかし、改めてハワイ島での全ての時間と経験を思うと、この島が特別な何かを4次元の世界でもたらしてくれたんだなと深い愛と感謝の気持ちでいっぱいになります。理論的に説明できないそれは、やっぱりハワイ島の人々が特に敬う火山の女神ペレから与えられているのかなと思うのです。
太平洋のど真ん中に位置し赤道からもそう遠くないハワイ諸島の気候は安定しています。大陸からの気圧の影響もなく、特にハワイ島は高層ビルなど人的な変化の要素もないので、私の知っている12年間いつも同じ風で迎えてくれます。台風や火山のなどの影響で変化はありますがそれは自然な事と受け入れられるくらいで、都会的な変化の刺激はなくてもいつも同じハワイ島に安心し愛情を感じます。
それが、今回ハワイ島に行った際、今までの12年とは少し違いました。
今回ハワイ島を訪れる前にローカルの友人と話していた時、「今年はハワイも気候が違うよ。いつもより暑いし雨も多い。」と言われました。物心がついた時から、「この夏は異常気象だー」と日本では毎年のようにテレビで言っている気がするので、いったいいつの時代が ”普通” なんだろうかと思う節もありますが、確かにここ数年の平均気温は上がり続け、世界中で異常気象だというニュースを見るとやっぱり確実に、さらに加速して気候は変動しているんだと不安になります。そして、友人が言っていたようにこの夏ハワイ島を訪れた時、ついにそこでも気候変動を肌で感じてしまいました。
夏の暑さとはいえ、太陽はヨーロッパやアメリカ本土、オーストラリアなどと比べると包まれているような柔らかい感覚でしたが、いよいよ刺すように熱くなりいつも通りの装備で海に行った私は大火傷の日焼けを追う羽目に。雨の降る時間はコナ側の山中では夕方が多かったのですが連日夜暗くなってからの土砂降りで、夜間に土砂降りの真っ暗な山道を運転した事がほとんどなかったのでとんでもないスリルを味わいました。多くの地元の人々も今年はいつもと違うと二言目には言っていました。
12年間で他にも違った事といえば、ハワイ島にいれば必ず1度は訪れるボルケーノ国立公園内の火口の近くの観測地が、昨年の新しい噴火口や地震が増えた影響で封鎖され遠くからの観察となりました。それでもボルケーノ国立公園は美しく人間の観光など関係のないように空気と色を変え刻々と時が過ぎていきます。「ふむ、、、そういう事か、また来よう!」もしかしたら、それが火山の女神のペレからのメッセージかもしれないな。なんて思いながら帰りの車を運転しました。
そしてハワイ島の中でも一番と言っていいほど大好きなマウナケアにも今回は行く事ができませんでした。それは今マウナケアへ続く道の開発工事に対して多くのハワイアンと地元の人々の反対運動があったからです。予めリサーチをしていなかったので、プロテストの人々のキャンプを通り過ぎた時気づかずに道を見逃したのかと思っていましたが、後で管理の人に今は封鎖されていると聞きました。「もし星が見たいなら、この先に車を停めてみるといいよ」と教えてもらい、星が見えるまで山の冷たい空気のなか静かに待ちました。
マウナケアはハワイアンにとって神聖な山です。多くの人々が自然を敬愛し、自然から学び、そしてそれが簡単に壊れてしまい元に戻せない事を知っています。
マウナケアは様々な好条件から天体観測に適した場所で、山頂には世界中の大きな天体望遠鏡の施設が建てられていますが、そこに行くまでの道はあえて整備せず、アクセスのしにくさで人数を制限し自然と文化を守っています。今回さらに大きな天体設備を建てるにあたり、その道も広く開発するという案に対しての反対運動が大きくなっています。この開発案と反対運動は数年前からありましたが、今回道が封鎖されるほど大きくなっているとは知りませんでした。
星が出るのを待っている間、静かな空間のなかで色々な思いがよぎり少し涙が出ました。
その多くはマウナケアのプロテストの圧巻されるほどのパワーと、彼らの文化、自然への愛を思ってのことです。宇宙科学の解明から世界がより良くなる可能性もあると信じる人もいますが、やっぱり何億年かけて形成された自然を一瞬のうちに壊して開発するのはもったいないと思います。
10代の頃でしょうか、日本は古い建物など壊してあっという間に再開発してしまうのをなぜ歴史を大切にしないのかと寂しく思った事もありましたが、地震が多い日本では建物の老朽化などが問題となり状況に合わせて前に進んで行く事が大切なのだ理解しました。そしてどんどんSF漫画のようにハイテクになっていく東京が世界の中でもユニークで面白いと思っています。
しかし、世界は前に進むものですがブレーキをかけながらでないと判断する前に失うものも多いでしょう。ハワイ島にある自然は長い年月をかけ形成され、守られ、そしてゆっくりと自然の力で形を変えていきます。その美しさは人の力ではどうしたって作れないものなのです。
マウナケアへ向かうサドルロードを走ると目前に広がるのは大きな空だけです。冒頭ハワイはいつも同じように迎えてくれると言いましたが、空は毎日今日が今までで一番いいと思うくらい違います。毎日こんな雲と、夕陽と、色は見た事がないと驚かされます。
その時ヒロから曇り空のサドルロードをしばらく走っていると、西側の空が突然ピンクと青と強い光が混ざりあってあけてきました。思わず「ワーーー!」と感嘆しました。きっと、昔の人々もずっと、そんな瞬間から何かインスピレーションを受けてきたのでしょう。
一緒にいた友人は楽しみにしていた初めてのボルケーノもマウナケアも今回は見に行けませんでしたが、その特別な空はまるでハワイ島から「今回はこれをあげる。」と言われているかのようなギフトだったと思います。そしてプロテストをはじめハワイ島を愛する人々の強いエネルギーは間違いなく熱く放たれ、12年で一番ローカルの人々のパワーを感じました。
待っていた星は、チラチラと少しずつ姿をあらわしてきました。
ハワイ島への愛と、いよいよ最後の楽園にまでチラついてきた気候変動への焦りと、人々の強いエネルギーに刺激され、また次の12年もこの美しい島で過ごすことができますようにと願いを込めて。
I Heart Hawaii